栃(とち)は、トチノキ科、トチノキ属です。栃の木は日本ではこの1種のみで、イギリスではジャパニーズ・ホースチェスナッツと言われます。世界には北半球の温帯と北米に2属、約25種があると言われています。中国にシナ・トチノキ、ヨーロッパにはセイヨウ・トチノキ、アメリカではカルフォルニア・トチノキなどが有名です。(英)ホース・チェスナッツ・バックアイ(仏)マロニエの名があります。樹高20m~30m、径は70cm~1m近くが平均アベレージで、中には径2m近い大径材もあります。市場では年々大径材の出品が少なくなりつつ有ります。日本の北限は北海道南部銭函より南、本州・四国・九州の山間部に分布していますが、純林は形成しなく、特に九州は稀な材と言われます。かつては岐阜の山地・三重・和歌山の山間地も銘木級の出材がありました。今では関東北部・東北地方・会津北上山系に産地が移動している感が有ります。現在、材の”出し”に便利な低地から山間には、まとまって出材する地域は無く、山深い所に銘木級が残ります。

栃の一枚板

写真①:バランス良く栃特有のチヂミが美しい板

栃(とち)について

栃材の赤身は、収縮したり、白と赤の境には多くの狂いが生じ易い為、白太白材の利用部分が多い材が優良材と言われ、原木の段階で白が多く赤味が少ない、通称日本の国旗に例え”日ノ丸材”に高値を呼びます。乾燥には人一倍気を掛けて養生をしないと青カビや虫害の発生(外皮を付けたままでは)があります。材面は白色又は淡黄白色を帯びた材を秀材として、更にチヂミ(縮緬杢)や斑杢(ふもく)・漣(さざなみ・リップルマーク)がバランス良く乗っている材が最上材と言われます。

栃の一枚板

写真②:リップルマーク・漣(さざなみ)杢が有る栃材

栃の一枚板

写真③:縮緬杢が主体の栃材

栃材の用途・仕上げ

昔は床ノ間を中心に床柱・地板・棚板が主流の時代、白い材面に重クロム酸等を使い着色を施した部材が多かったです。又古建築では、京柱離宮部屋の棚板類などは、うるしを施した作品も見受けます。

現代ではレジン樹脂やカラー樹脂・カラーオイルを使い、杢目等をより引き出す方法が流行っています。仕上り面の多様さや色彩の魅力を更に引き出し、現代住宅や店舗にも合うデザイン・カラーが重要視されています。

栃の魅力・チヂミ

チヂミとは、絹地の織り模様の総称で、縮緬(ちりめん)杢の省略語です。銘木業者でチヂミの入り方を物差しに例え、1寸(3.3cm)巾に8本~10本入った材杢目をチヂミ材として最高材と謳う方が居ますが、業界の古老に聞くと、明治以来その様な評価はまったく無いとの事です。板の大小サイズに関わらず、本数では無くバランス良くチヂミが入っている材がAクラスと言います。又杢の有る部分が強調されたり、人の視覚に絡んだり、杢のバランスが片寄っていたりする方が嫌味になるそうです。

栃の一枚板

写真④:長さに対してバランス良く4面に縮緬が入った栃柾目

人の住まいの中に安定感が有り落ち着きの有る材の方が上だと言います。例えば1mm単位のチヂミ杢が有る材が店舗では無く一般家庭に有るとしたら、長く家族と一緒に住む家には目がクラクラし、居たたまれない気分に必ず人はなります。”杢が有り過ぎず、無くても面白さが欠く”日本人の感性にピッタリ添う塩梅(あんばい)が杢の定義と思われます。