金糸楠木(きんしなんぼく)の中国名は、金线楠木(簡体)、金線楠木(繁体)です。現在あの広い中国の国土の中で、山東省のごく1部2箇所に保護林として大小の樹(育成木)・20本程生育していて、やっと根付いている状態です。この材の魅力は何と言っても材面に砂金を播いた様な美しい杢目と色彩が現れる所が一番と言われています。又、歴史的に見ると、あの有名な世界三大悪女の1人と言われた西太后(せいたいごう・清朝末期の権力者)が没した際にこの金糸楠木(きんしなんぼく)の棺(ひつぎ)で納められました。又、清朝歴代の皇帝が君臨していた有名な紫禁城(きんじょう)・内大極殿の8本の長柱がこの金糸楠木(きんしなんぼく)で製作されていると言われます。つい最近の中国の考古学界で、王族の墓が出土され石室内には楠(クス)の木が使われていたと言うニュースがありました。

金糸楠木(きんしなんぼく)

写真①:金糸楠木(きんしなんぼく)の杢目

金糸楠木・中国の幻の材について

現在利用されている材のほとんどは埋もれ木です。中国には火山はありませんので神代ではありません。かつて黄河・揚子江の2大、大河の上流支流域で生育していた材が、山津波(地震・豪雨等)により、河北・河南・西江・湖北各省の河川の湾処(わんど・くねくね川が流れている形の部分)に各川が時代と共に流れ方が変わり、推積した土砂の中に金糸楠木(きんしなんぼく)が埋まっていました。その後、宅地造成や開発時にたまたま出土材として出て来た材が現在利用されています。北京オリンピック(2008年)の前後に開発が盛んに行われ、かなりの本数が埋もれ木として出土されたと言います。貴重な材だけに金糸楠木(きんしなんぼく)の専門家具製作工場が出来たと言われます。

金糸楠木の利用用途

大きな材面を使った応接セット・寝台(ベット)・家具類等は日本円に換算すると何千万円以上の価格が付き、中国の富裕層の人々が争って買い求めているのだそうです。日本で言う”無い物ねだり”現象が起こっている程、供給材が無いと言われます。細かな材は、文具品や数珠製作までも利用されます。日本で言う文化庁にあたる文化部・国芸院では、中国歴代の皇帝が愛用していた家具類の再生や修理、補足材としていろいろな貴重な材を収蔵していると言われています。本材も含めて海南島産、黄花梨・紫黄花梨など、国外持ち出し禁止材となっています。

日本の現状

ほんの数年前まで中国の方々は赤色の材(縁起が良い為)、花梨・紫檀類など、中国バイヤーが日本に訪れ根こそぎ買い付けて行った事があります。今ではブビンガ、欅材なども標的になっています。日本で金糸楠木(きんしなんぼく)は、中国の友人の伝手(つて)を使って、わずかな小片材が国内に旅行者から持ち込まれるにすぎない状況です。

金糸楠木の疑問

この材の植物学的情報は、一切在りません。分類上の事に始まり、本をいくら探して調べても出て来ません。扱った事が少し有りますが、楠(クス)の様に樟脳の香りはありません。もともと中国では、日本で言うクスは樟(くす)と書かれ、楠(くす)では無くタブを意味します。埋もれ木の年輪は積んでいて一見タブの様な気がします。しかし材面は砂金を播いた様に細かくきらめいています。この材に詳しくご存知の方は一報頂ければ幸いです。5000年の歴史を持つ中国はさすがに”幻の木”に関しても奥が深い物語がありますね。

金糸楠木(きんしなんぼく)

写真②:河川から出土された金糸楠木(きんしなんぼく)の埋もれ木の杢目

金糸楠木(きんしなんぼく)の材で製作された家具セット

写真③:金糸楠木(きんしなんぼく)の材で製作された家具セット。何千万円もします。

埋もれ木の金糸楠木(きんしなんぼく)の文具。文鎮(ぶんちん)。

写真④:埋もれ木の金糸楠木(きんしなんぼく)の文具。文鎮(ぶんちん)。

海南島産、紫黄花梨

写真⑤:文化部でストックされている海南島産、紫黄花梨(幻材)