一昔前までは、全国各地の清流・漁村には和船(わせん)と言う名の小船(田船「たぶね」)・菱の実船・潤菜船(じゅんさいぶね)から中・大型の和船まで、用途によりいろいろなか型・地方色の強い船がありました。又、全国各地、急流下りの観光船も含めると、当時(戦後~昭和40年代まで)、相当数の船が存在していたと思われます。

滋賀県・琵琶湖産船板

写真①:滋賀県・琵琶湖産船古材、4m×70cm×6cm板(カウンター用)

風流板(ふりゅういた)・船洒落材(しゃれざい)

風流船(海偏)

最低でも50年~100年近く、その地で実際に使われて来た船が前提で、尚且つ”風雪雨”により洗われた船体・長い間の仕事・作業中に起こる傷や割れ跡など、俗に言う”景色(けしき)”の有る板となると、なかなかいざ探しても出会うケースは少ないと言われます。

海の船材は、高度成長期に海が汚れ、タール・重油が付着した船材や焼き消した跡が有る材は価値を落とします。和船であっても、その後”FRP”など再外装し塗り固められた船などは論外です。同じ海の船でも放置された船に船虫(ふなむし)が上手く跡を付けている物には、味が有り江戸時代から看板材や市中の居酒屋、煮売り屋のカウンターにも使われて来ました。又、海船は、船底が平(たいら)では無く波を切る都合上、北前船など、米・味噌・酒・塩などの積荷の船倉部の大型の仕切板材などは人気が有り、昔から工作の定板(定規板)や縫製台などに使われて来ました。

風流船(川偏)

川船でも川の河口や汽水域の船では、貝殻が付着していたり、長年の泥(どろ)を多く含んでいて、船材としてはあまり価値はありません。清流や湖の船材を一番とします。川下りの船の場合、下流部は石が細かい五郎太石(ごろたいし)なので、1日何回も陸揚げの際、船底が”うづくり”を掛けた様に洗われている表情が最高材となります。又、川船では大きい物より、2~3人乗りの小船クラスで、船底が平(たいら)で鮎漁・火振り漁に使われて来た味の有る船が最高とされています。解体しなくても店舗等でいろいろな使い方が有り、船その物自体に価値が有ります。

小船材、滋賀県琵琶湖産

写真②:小船材、滋賀県琵琶湖産

船材・水車板はどの様に仕入れるのか?

かつては古材・船材や山村の水車材など、全国各地を巡って材を集める業者が居たと言われます。事実、全国の銘木市場に年1回は、そうした材が出品されていました。現在では趣味人や蒐集家として、自分で探さなければなりません。川や湖で既に沈船になった船は、クレーン車で引き上げなければならず、川船では詫びた良船材は現在使っている人と新船と取り換える場面も有り、交渉に時間を割く事も多いです。

船材には何が使われているのか?

多くはその土地土地の材、多くは”杉”が主で、次に”桧”が多いです。変わった所では、槇(まき)・椹(さわら)・松材なども有ります。

水車材には何が使われているか?

北日本や北陸では、杉・桧・欅材が主流です。松材を使った水車材は、一番価値が有り、長年清流で揉まれて来た為、”緑”の斑が必ず付き、何とも言えない”景色”が付いた材が多く、古い材程、高値を呼びます。又全国的に見ても”松”を使った水車の地域は限られます。

水車の古材や洒落材は、松材を最高とする為、長年清流でコトコト廻っていた水車が一番で、田の引き込みや河川の下流部に有る泥を吸った水車は、いくら古くても価値はありません。そうなると松材を使い清流で回っている水車は現役を除くと数的に非常に少なく、上手く解体された材は、価値が有るのがお分かりになると思います。

日本には何台の水車があるのか?

今から20年近く前のNHKのドキュメンタリーで、水車の特集がありました。当時で720台の水車がドライブインの見せ物や、看板水車も含めた総数です。この事を含めて水車の洒落材は価値がいかに有るかお分かりになると思います。

船材は何に使われるのか?

底板は主に店舗カウンター材・棚板・看板等、細かい部材は茶室の雇額板・風炉先屏風にも使われます。

技術を要する板巾剥ぎ

写真③:技術を要する板巾剥ぎ

水車材は何に使われるのか?

100年以上清流でコトコト廻っていた材には、特に材面に独特の表情が有り、特に茶道の”詫び・寂び”の精心世界と融合します。炉縁に始まり風炉先屏風・香合・花器敷板・スイハツ板・莨盆(たばこぼん)等に利用されます。

船板・水車板の何に魅力を感じるのか?

船にしろ、水車にしろ100年単位で人間の営みを支えて来た材で、水車は雑穀物を碾き、漁で得た魚を食べ物として供給して頂いて来た”観念”に人は感謝し、材に刻み込まれた傷にも”景色”を見い出し、人の人生観や喜怒哀楽までも写し込んだ”念”を共に有すると言う、日本人特有の物への考え方です。そうした考えも持ちつつもう一度味わい有る古材の使い方を一考して頂いたら幸いです。

船材の特殊な釘・サッパ釘

船材の板と板を剥ぐ時に使う特殊な和釘、一般には縫釘(ぬいくぎ)の総称です。サッパとは全国の漁村で使われた小船の総称で、語源は笹の葉の形から起因していますが、関東圏ではこの縫釘を昔からサッパ釘と言います。ニシン科の魚で汽水域から河口、海の沿岸の砂泥底に生息する魚(体調10~15cm)です。サッパの泳ぐ姿(上から見た魚影)が、サッパ釘に似ていた為、サッパ釘と言われています。又、魚のサッパは、寿司店に出される小肌(コハダ・コノシロ)より味がさっぱりしている為、サッパの名称が付いたとも言われています。

板と板を剥ぐ際使われる縫釘(ぬいくぎ)・サッパ釘

写真④:板と板を剥ぐ際使われる縫釘(ぬいくぎ)・サッパ釘

サッパ釘

写真⑤:サッパ釘

ニシン科のサッパ

写真⑥:ニシン科のサッパ

船の形や用途により使われる釘類

写真⑦:船の形や用途により使われる釘類(A:高乱釘「こうらんくぎ」、B:皆折(貝折)釘「かえおれくぎ」、C:通し釘

松材の水車板を使った飾り棚の例

写真⑧:松材の水車板を使った飾り棚の例

洒落材の多くは、人の営みとオマージュして造られたいわば天然の造形美です。材を見ていると100年近くタイムトラベルして、元の原形を透視する楽しみが出来ます。絵画を描く有名なアーティストでも、材面に筆を入れられない程枯れた完成美を構成しています。この様な材への想い、美の考え方は日本人の感性に完全に溶け込んでいます。

船虫跡(虫食い跡まで愛でる感性。掘割に漬け込んだ桧材)

写真⑨:船虫跡(虫食い跡まで愛でる感性。掘割に漬け込んだ桧材)

水車板(仕切板)を利用した茶道の花器敷板

写真⑩:水車板(仕切板)を利用した茶道の花器敷板

水車板(仕切板)を利用した茶道の花器敷板

写真⑪:水車板(仕切板)を利用した茶道の花器敷板

100年近くの水流の”錆”が現れた板。指物故風里谷(ふりたに)藤伍作。両面使いになっていて、割れ部分に桑・黒柿などの”契り”が打たれていて、良い”景色”になっています。

船板材・撮影協力:新潟市・(株)新発田屋

新潟市・(株)新発田屋

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