一般に国産の柿の木を製材すると大部分は白・灰色、一色の材面が多く、有っても芯際に少し黒目が有る程度の材が多いです。その中でも杢目と称される黒縞目などが美しく現れている木が初めて黒柿と言われます。カキノキ属・カキノキ科は、世界には熱帯から暖帯にかけて約400種有ると言われています。その中には銘木材として有名な黒檀(こくたん)もカキノキ属に含まれます。日本の柿は本来野生種として自生していた物では無く、中国・朝鮮半島を経由して奈良時代、日本に伝播したと言われています。柿の木は、北海道を除く本州・四国・九州・朝鮮半島の済州島、中国の山地に広く分布しています。元々柿の果実は小さく、その多くは渋柿と言われ、現在甘柿と称する物は、日本で育成された品種です。柿の別名は、山柿(やまがき)、野柿(のがき)その他地方名は多いと言われます。栽培種としては、甘柿系・富有・次郎・禅寺丸・御所などが有名で、現在品種は多種に渡ります。又、柿渋を取る為、栽培されている種は信濃柿が有名です。樹高3m~10m・径30cm~80cm近い大径木も有り、幹から二股に枝分かれしている樹形が多いです。

黒柿

写真①:材面に現れた孔雀杢(くじゃくもく)・網目杢(あみめもく)

柿(かき)・黒柿(くろかき)について

黒柿の一番多い杢目は、材面に縞が走る縞目杢が一般的です。杢目の貴重さから網目杢(網目状の杢目)・縄目杢(縄目状の杢目)が続き、最高クラスの杢目は何と言っても孔雀杢(鳥のクジャクが羽根を広げた様)、更に”緑色”の発色が伴う物が最高とわれます。又、小豆杢(あずきもく)・霞杢(かすみもく)・笹杢(ささもく)などが入り乱れ杢を構成している材面も有ります。又、特殊な使い方をする柿の白い部分を使う白杢のチヂミ杢や白杢材にまるで胡麻を播いた様な杢目柄、胡麻塩杢(ごましおもく)・黒柿の黒目だけを取材する黒柿の真黒(まぐろ)材も珍重される杢目柄です。

黒柿

写真②:いろいろな黒柿の杢目

黒柿

写真③:黒柿のチヂミ杢が現れた杢目

白柿のチヂミ杢

写真④:白柿のチヂミ杢

「A」印度蘇芳(スオウ)染め、「B」黒柿の胡麻塩杢白材(各ステッキのシャフト材)

写真⑤:「A」印度蘇芳(スオウ)染め、「B」黒柿の胡麻塩杢白材(各ステッキのシャフト材)

黒柿材の用途

古くは正倉院御物の中に黒柿厨子(ずし)が有名です。建築材としては、床ノ間廻り(床柱・床框・落掛)を中心に建具材や階段手摺り材、中には差鴨居にも使われた作例もあります。茶の湯の世界では、杢の貴重性や渋派手の杢目と相まって、炉縁・風炉先屏風・香合・莨盆(たばこぼん)・茶杓(ちゃしゃく)等の作品が多く見られます。指物の世界では、棚物・小卓・茶箪笥・袴り皿・盆。現代では木軸ペンやアクセサリー類・ぐい呑み器・杯などの作品もあります。

黒柿の茶道具(「A」香合・「B」茶杓・「C」ぐい呑み)

写真⑥:黒柿の茶道具(「A」香合・「B」茶杓・「C」ぐい呑み)

黒柿の茶道具(炉縁・孔雀杢)

写真⑦:黒柿の茶道具(炉縁・孔雀杢)

黒柿の板としてのサイズ

戦前は中国から長さ1820mm×巾90cm~1m近い床ノ間の地板や違棚材・仏壇材が入荷していたと言います。又、寺院客座の棚板類や長物4m~5mの落掛・見切材など洋風邸宅の階段廻りなど、建築作品も多く残されています。

黒柿が当たる確率は1,000本に1本?

直接山で買取り伐採業者は日本国中に居ます。高値を呼ぶ良材が出材される事を願いつつ伐採をしている訳ですが、黒柿良材に出会う事はなかなか有りません。白材がほとんどで、有っても芯の1部の部分に黒が走っている程度です。業者も価格の安い柿の木は、出品しない訳で、山に捨てられている材の方が多く、この事を考えると総伐採数の分母は相当数です。その為、良材が当たる確率は、500本~1,000本に1本と言う計算になります。

黒柿の名産地

  1. 東北地方:山形・岩手・福島・新潟
  2. 北陸地方:富山・石川・福井
  3. 中部地方:長野・岐阜
  4. 関西地方:京都北部・兵庫(丹波)
  5. 中国地方:鳥取・島根・岡山

昔から良材が出ると言われた地域です。

話しは変わりますが、ゴルフをしている方は本間ゴルフの名を知っている方が多いはずです。今は中国企業の傘下となりましたが、ルーツは山形で当時ウッドヘッドは、日本産黒柿の黒身を使ったのは有名です。いかに当時山形県に黒柿が多くあった事を物語っています。

どの様な地域で生育している黒柿が多いのか

産地別で紹介した様に、比較的寒冷地の山間で”三寒四温”の激しい地域が良いと昔から言われています。”黒木(くろき)”と言われる樹肌が黒い材が良いと言われ、又、甘柿系の栽培種では無く、渋柿・豆柿の方が黒柿の出る確率が高いと言われています。

なぜ山間地の柿の方が良いのか

日本の土壌は、火山が多く、雨も比較的多雨で、山々は急峻(きゅうしゅん)な地形で形成している為、他の大陸の良質な土壌とは異なり、雨による養分の流矢が有り、酸性質の痩せた土地が多いと言われています。特に黒柿の山地は、在来の草木や樹木にとって生育するのに厳しいと言われます。田畑地の肥料を施す土地と違う為、土自体にタンニン鉄が多く含んでいる”黒ボク土(腐植に富んだ粘性の土)”が黒柿に取って条件が合う土地と言えます。黒柿の産地と黒ボク土を多く含む地域と不思議とリンクします。

黒柿の人知を超える自然の摂理とは

渋味の素のタンニンは、ブナ・カシ類の皮やブドウ・クルミの果実にも多く含まれています。果実の中でも特に柿の実の中の種子が多いとされ、その理由は柿の実が熟すのは、中の種が充分タンニンを吸収してこそ、実自体も色付き始めます。そうすると、鳥や猿・熊などに食されて、消化しきれない種が生育地域外に運ばれ、柿の子孫を繋いでくれる理由があったのです。この事に近い樹木はクルミです。クルミは川や湖の近くに生育し、クルミの外皮も渋を多く含んでいて、川を利用して他の地域に種子を運ぶ様に自然の摂理に適った方法を取ります。

柿の木の乾燥の仕方

柿の原木は伐採後はそのままにしておきますと割れが直ぐに入り、特に断面が菊型の材は割れの入りが深いと言われます。小物造り用では、短尺物を水に漬け込んで」、1年後に倉庫の中で逆木にして、ゆっくり乾燥させる事をお勧めします。長い原木でも用水路や地下水など、流量が豊富な池・貯水場に同じく沈みこませて水中乾燥させます。この方法がリスクを下げ、虫害など無く安全に乾燥させる事が出来ます。

黒柿

写真⑧:いろいろな黒柿の杢目

昔から木挽きの逸話で、”木”は山を買え(木出しの運搬)と言います。「黒柿は土(土壌)を買え」ですね。

黒柿の美的で上手な使い方

確かに黒柿の杢目のすばらしい孔雀杢(くじゃくもく)などは高値で貴重です。人の眼が分別出来ない程の杢目より、誰でも黒柿とわかる方の作品の製作をお奨めします。杢目は上杢の方が良い事は分かりますが、同じ作品を製作しても白黒のバランスに富んだ作品の方に軍配が挙がります。木工製作している人のある意味欠点は、杢目にどうしてものめり込む事だと言われます。一般の方の方が、かえって審美眼を持ち合わせています。故、人間国宝の木芸家、大坂弘道氏は、王朝風の超絶技巧を有する方で、中でも黒柿に印度蘇芳(いんどすおう)染めや、拭漆を巧みに用い黒柿の杢目にバランスを計らい、製作品に合わせて上手く拭き取り、見る人に巧妙に美的センスでランク上を行った杢芸家で有名です。黒柿を使った小物製作や木軸ペン製作でもあまりにも杢を意識して用いるのでは無く、杢目を上手く抜き取るセンスをもっと磨くべきと思います。

黒柿上杢中継ぎ”箸”(白黒材の使い方)

写真⑧:黒柿上杢中継ぎ”箸”(白黒材の使い方)

故人間国宝木芸家、大坂弘道氏作品、蘇芳(スオウ)染め小箱(白黒材の使い方)

写真⑨:故人間国宝木芸家、大坂弘道氏作品、蘇芳(スオウ)染め小箱(白黒材の使い方)