松(マツ)は、マツ科・マツ属です。世界にマツ属は約100種・唐松属は20種、トウヒ属は50種・モミ属は40種有ると言われています。その中でも日本の黒松は四季に育まれ、材としては秀材で、本材に優る材は無いと言われています。産地は本州・四国・九州・南限はトカラ列島の宝島まで、朝鮮半島の済州島などの南海岸地域に分布します。優良材の多くは、日本列島を挟む様に流れる暖流(対島・黒潮)の海岸地帯から少し内陸部に入った所や、山間部では海抜10m~500m以外に集中します。裏日本の山陰側から佐渡ヶ島、表日本では太平洋側・宮城(塩釜神社)までと昔から銘木業界では言われています。別名は男松・雄松・油松(アブラマツ)・鼈甲松(ベッコウマツ)・秀松(ヒデマツ)です。昔から特に有名な脂松(ヤニマツ)の産地は、地域松名です。山陰松・沼津松・三河松・水戸松・穆佐松(ムカサマツ:宮崎県)・茂道松(熊本県)・道了松(神奈川県・現在育成が確認されていません)。樹高30m~40m・径は80cm~1m。大径材となると径1m~2m近く有る材もあります。文中にある道了松は、現在皇居内東宮殿の造営材に使用されたのは有名です。

松の一枚板

写真①:板巾いっぱいに杢目が有る脂松

マツ(男松・脂松)について

淡褐色から赤黄濃褐色まで、産地・地域により色彩の差は大きく、一般に北に行くほど樹脂(ヤニ)が薄いと言われます。又一般には、木の末より元(根に近い)部分の方がヤニが濃いと言われます。

ヤニの評価

銘木業界では、昔より「松・神代・屋久杉を追った人は財を成さず」の諺(ことわざ)が有り、木取り製材の難易度は非常に高く、材を扱うには難しい樹木の1つと言われます。又ヤニの有無が取り沙汰され、ヤニが有り過ぎても少な過ぎても評価材にならず、更に材面に節・擦り傷・ヤニツボ・入皮等などは論外となります。但し、節の例外が1つあります。大板の材面の中に、大・小の生節が有る材は、昔から夫婦節(めおとぶし)と言って、貴重とされます。しかし二つの節が出る確率は低く、何本松を挽いても悲しい結末に終わります。

松の一枚板

写真②:端正な杢目の板材。傷はまったくありません。

松の超難易度部材

以下は松の超難易度部材です。

  1. 建築材としては松の四方柾柱・松の前杢床柱
  2. 茶室等の琵琶棚(長さ巾1060mmの赤身が要求されます。)

敷台・縁甲板・差鴨居なども大工泣かせの松材です。

松の秀材

写真③:松の秀材

写真③は、「A」が杢が見付いっぱいに乗った前杢床柱の秀材。「B」が蟹杢(かにもく)が見られる前杢床柱の秀材。「C」が柾目が四面通った四方柾床柱の秀材です。

ヤニ松の価値

日本の人間国宝の木芸家の方々は、松材を使った大なり小なりの指物作品に挑戦し続けて来ました。言わば削り・刳る(くる)・組むの指物技術の”登竜門”と昔から言われます。銘木業界・指物の世界では、材の中で1番は”松”を挙げる人が多数を占めます。材の持つ猛猛しさ、杢目の力強さ、迫力と気品ある美しさ、どれを取っても他の樹木をはるかに凌駕します。

ヤニ松の魅力の背景

日本の原風景の”白砂・青松”。松と日本人の関りは、正月の門松を始め神が宿る木として信仰とも結びついて来ました。又極寒の中、風雪に耐え、緑の葉を繫らせている姿に昔から、けなげなさや人生の生き方まで学び教えられ、心を引き付けられて来ました。松は古来より常盤木(ときわぎ)と尊ばれた事が良く分かります。

松の一枚板

写真④:材面に金襴杢(きんらんもく)が有る松の板材

松板の手入れについて

松材はオイル拭きやウレタン塗りも材によっては最適な方法ですが、買った御客様が自分で”木を育てる”心も必要で、アルコールやクルミオイル、昔ながらの”米糠”で磨き上げる努力も必要です。

完璧な板材を求めるのでは無く、人と共に仕立て上げる”心の余裕”も必要です。板材は必ずその心と努力に応えてくれるはずです。

玄関に5mのヤニ松柾目を使ったフローリング材

写真⑤:玄関に5mのヤニ松柾目を使ったフローリング材

写真⑤は、玄関に5mのヤニ松柾目を使ったフローリング材です。すばらしいの1言ですね。

夫婦節(めおとぶし)

夫婦節(めおとぶし)

写真⑥:夫婦節(めおとぶし)

夫婦節(めおとぶし)

写真⑦:夫婦節(めおとぶし)

節の大小がもっとはっきりしていて、2つがもう少し並んで有る材が最高と言われますが、写真の材は巾90cm近く有り、取ろうと思ってもなかなか取材出来ない”夫婦(めおと)”節です。