このような杢目の呼び方はありません。しかし、以下に挙げる各部材を取り上げ、各例に取ると、自然にこの呼び名の杢目がピッタリと感じると思います。”ふうりゅう”と呼ばず、”ふりゅう”を当てました。また、洒落材(しゃれざい)と一般的に呼ばれている総称でもあります。中には樹木と同様に、生き抜いた何百年物の柱・板材であったり、水車など100年単位で廻っていた古材もあります。そうした洒落材に現れた杢目・材を賞(め)で、利用しない手はありません。

風流杢(ふりゅうもく)・風流杢目(ふりゅうもくめ)

風流杢目(ふりゅうもくめ)を要している品目

  • ①水車古材一式
  • ②船古材一式
  • ③虫喰い板材一式
  • ④稲木(いなぎ)・稲架(ほさ)古材一式
  • ⑤民具・農具・建築古材一式

上記の材料は、日本人が古来より風流や寂び(さび)・侘び(わび)・野趣・いとおしいさままで加えた材の表面の美しさに対する材の賞(め)で方の見方・方法・心の有様の表現方法を指します。それを風流(ふうりゅう)と言わず、風流杢目(ふりゅうもくめ)と呼びました。

船板材、使い方例

写真①②は、茶室天井に川船の朽ちた底板をあしらった例です。川下り舟・川の中流の五郎太石(ごろたいし)、陸揚げの際、舟底を洗った杢目、目の現れ方は正に自然美、茶室に趣きを与えます。また、掛け込み天井に、No③の部材(水車の図参照)、蜘蛛手(くもて)と呼ばれる錆が付いた材で、趣きの違う変化が深さを与えます。

茶室天井に川船の朽ちた底板をあしらった例

写真①:茶室天井に川船の朽ちた底板をあしらった例

茶室天井に川船の朽ちた底板をあしらった例

写真②:茶室天井に川船の朽ちた底板をあしらった例

写真③④は、茶室立札席の台目柱(だいめいばしら)、和船の方向舵(ほうこうだ)、舵(かじ)を使った例です。穴は水流を加減する為の水抜き穴です(樫(かし)材)。左は水車・升組に水を引き入れる為の水樋(みずとい)の古材です。

茶室立札席の台目柱(だいめいばしら)、和船の方向舵(ほうこうだ)、舵(かじ)を使った例

写真③:茶室立札席の台目柱(だいめいばしら)、和船の方向舵(ほうこうだ)、舵(かじ)を使った例

茶室立札席の台目柱(だいめいばしら)、和船の方向舵(ほうこうだ)、舵(かじ)を使った例

写真④:茶室立札席の台目柱(だいめいばしら)、和船の方向舵(ほうこうだ)、舵(かじ)を使った例

使い方はいろいろですが、特に寂び(さび)・侘び(わび)の建築を演出する茶道・数寄屋に欠かせない材料の数々です。

水車板材、使い方例

写真⑤⑥⑦は、傘天井(かさてんじょう)中央に、水車小屋の歯車を利用した例です。

傘天井(かさてんじょう)中央に、水車小屋の歯車を利用した例

写真⑤:傘天井(かさてんじょう)中央に、水車小屋の歯車を利用した例

傘天井(かさてんじょう)中央に、水車小屋の歯車を利用した例

写真⑥:傘天井(かさてんじょう)中央に、水車小屋の歯車を利用した例

傘天井(かさてんじょう)中央に、水車小屋の歯車を利用した例

写真⑦:傘天井(かさてんじょう)中央に、水車小屋の歯車を利用した例

写真⑧は、No③の部材(水車の図参照)から制作された水車の炉縁です。写真⑨は、水車仕切板を利用した扁額板(へんがくいた)です。

水車の炉縁

写真⑧:No③の部材(水車の図参照)から制作された水車の炉縁

水車仕切板を利用した扁額板(へんがくいた)

写真⑨:水車仕切板を利用した扁額板(へんがくいた)

写真⑩は、水車の仕切板です。写真⑪は、水車の羽根板です。

水車の仕切板

写真⑩:水車の仕切板

水車の羽根板

写真⑪:水車の羽根板

水車部材説明

図:水車部材説明

このように、永年使い込まれた水車材は、錆付の具合から風流で、各いろいろな用途に使う事が出来、捨てる所がありません。特に詫び(わび)・寂び(さび)の世界を求道する茶室・数寄者には、欠かせない材料の1つです。

虫喰い板材、使い方例

写真⑪は、栗(くり)材から現れた虫喰いです。板全体に虫喰いがあるのは珍しいです。

栗(くり)の板全体に虫喰いがある珍しい材

写真⑪:栗(くり)の板全体に虫喰いがある珍しい材

写真⑫は、屋久杉・土埋木(どまいぼく)の板全体に虫喰いがある珍しい材です。

屋久杉・土埋木(どまいぼく)の板全体に虫喰いがある珍しい材

写真⑫:屋久杉・土埋木(どまいぼく)の板全体に虫喰いがある珍しい材材

写真⑬は、栗(くり)の板全体に虫喰いがある珍しい材を活用して造られた室内の扉です。

栗(くり)の板全体に虫喰いがある珍しい材を活用して造られた扉

写真⑬:栗(くり)の板全体に虫喰いがある珍しい材を活用して造られた扉

写真⑭⑮は、草加市にある日本文化芸術関連施設漸草庵(ぜんそうあん)百代の過客(はくたいのかかく)で撮影した栗の虫喰い材です。この栗の虫喰い材は、茶室礼席床ノ間の化粧帯板として利用され、モダンな中にも渋さを演出します。

草加市にある日本文化芸術関連施設漸草庵(ぜんそうあん)百代の過客(はくたいのかかく)で撮影した栗の虫喰い材

写真⑭:草加市にある日本文化芸術関連施設漸草庵(ぜんそうあん)百代の過客(はくたいのかかく)で撮影した栗の虫喰い材

草加市にある日本文化芸術関連施設漸草庵(ぜんそうあん)百代の過客(はくたいのかかく)で撮影した栗の虫喰い材

写真⑮:草加市にある日本文化芸術関連施設漸草庵(ぜんそうあん)百代の過客(はくたいのかかく)で撮影した栗の虫喰い材

写真⑯は、大胆に虫喰い跡を利用した栗(くり)材の茶室の炉縁(ろぶち)です。

大胆に虫喰い跡を利用した栗(くり)材の茶室の炉縁(ろぶち)

写真⑯:大胆に虫喰い跡を利用した栗(くり)材の茶室の炉縁(ろぶち)

写真⑰⑱は、虫喰い跡が残る水車板、船材の古材です。特に船材で海に近い掘割りに沈め込んだ材に、フナムシによる虫喰い材は、特に好まれました。

虫喰い跡が残る水車板、船材の古材

写真⑰:虫喰い跡が残る水車板、船材の古材

虫喰い跡が残る水車板、船材の古材

写真⑱:虫喰い跡が残る水車板、船材の古材

写真⑲は、東京神楽坂の”和ダイニング・月”に納品した欅(ケヤキ)材の虫喰板です。オーナーがこの材を生かして、入口看板にして欲しいとの依頼を受け、デザインに凝った作品です。”和”は桧(ひのき)の板に組み紐(ひも)で和を結びました。

東京神楽坂の”和ダイニング・月”に納品した欅(ケヤキ)材の虫喰板

写真⑲:東京神楽坂の”和ダイニング・月”に納品した欅(ケヤキ)材の虫喰板

その他、使い方例

写真⑳は、旅先で撮影した写真です。かつてモダンボーイが集まったビリヤード場です(大正時代の作品です)。大胆に、これほどの水車羽根板を使っているのを見た事がありません。主人の感性に敬服します。

かつてモダンボーイが集まったビリヤード場(大正時代の作品)

写真⑳:かつてモダンボーイが集まったビリヤード場(大正時代の作品)

写真㉑㉒は、巾30センチメートル近く有る幻(まぼろし)の瀧割り板を使った床に掛ける”垂撥(すいばち)”です。写真㉒は、江戸期に割ったと言う黒部杉(木曽)の”瀧割り板”です。写真㉓は、船板で製作した”垂撥(すいばち)”の花掛け板です。船釘の跡があります。

巾30センチメートル近く有る幻(まぼろし)の瀧割り板を使った床に掛ける”垂撥(すいばち)””

写真㉑:巾30センチメートル近く有る幻(まぼろし)の瀧割り板を使った床に掛ける”垂撥(すいばち)”

江戸期に割ったと言う黒部杉(木曽)の”瀧割り板”

写真㉒:江戸期に割ったと言う黒部杉(木曽)の”瀧割り板”

船板で製作した”垂撥(すいばち)”の花掛け板(船釘の跡があります)

写真㉓:船板で製作した”垂撥(すいばち)”の花掛け板(船釘の跡があります)

写真㉔は、水車羽根材を使った”花台”例です。

水車羽根材を使った”花台”例

写真㉔:水車羽根材を使った”花台”例

昔ばなしと船板

応仁天皇の御世の頃、”枯野(からぬ)”と名付けられた朝廷お抱元の高速船(伊豆国で造られ長さ30m近くの長さがあったと言う)が古くなり廃船の憂き目にあいました。役目を終えた船の処分に応仁天皇は心を痛め、何かに役立てようと御考へになり、古船板を”薪木”にして海水から塩を取り出す為に利用したと言う竹製の”籠”にして500籠の塩を採取したと言われています。この時どうしても燃えない材が残り、その残り材を使い琴を作れと天皇が言われ琴に作り変えた所、遠くまで音色が響く”名琴”に生まれ変わったと言います。その事を想い天皇が歌を詠んだと言われ、万葉集に詠まれた歌が現在も残っています。

この昔ばなしを聞くと、長年使われて来た材への感謝・いつくしみ・めでる・味わうと言う言葉がピッタリで、日本人特有の物に対する感性が読み取れます。現在和船は、日本から消えつつあります。古くから使われ続く船には、何とも言えぬ魅力が有り、正に”風流杢”ですね。

船板

写真㉕:船板材

最後に

写真㉖は、茶道具、水指の蓋(ふた裏)です。板割りの樽型の水指です。普通点前(てまえ)上は、蓋表に蒔絵があるのですが、”裏勝り(うらまさり)”の江戸文化を忍ばせています。題は、幔幕(まんまく)に花宴です。

茶道具、水指の蓋(ふた裏)・題:幔幕(まんまく)に花宴

写真㉖:茶道具、水指の蓋(ふた裏)・題:幔幕(まんまく)に花宴

杢目のいろいろは、今回で終了します。文面で風流杢目(ふりゅうもくめ)を表現するのは難しいですが、写真を通じて情感を呼び出して下さい。

この蒔絵を洒落(しゃれ)・洒脱(しゃだつ)と取るか?酔狂か粋狂と取るか?風流と1口に言えば簡単ですが、日本人の心の表現は、奥深いものが有ります。

日本人独特の感性から誕生した素晴らしい杢目の種類をご覧ください。

杢目(もくめ)の種類

木の杢目(もくめ)には様々な種類があります。図は一本の杉原木からのいろいろな杢目を木取るイメージとなっていますが、このイメージから把握できる通り、同じ樹種でも木取る場所が異なれば、違う杢目(もくめ)が現れます。杉の例となりますが、杢目を木取る区分としては、白太(辺材)(しらた)、純白・白杢(じゅんぱく・しらもく)、源平・耳白杢(げんぺい・みみじろもく)、上杢目(じょうもくめ)、笹杢・中笹杢目(ささもく・なかささもくめ)、中板目(なかいため)、中杢目(なかもくめ)、追い柾・荒柾(あらまさ)、本柾目(ほんまさめ)に分類されます。杢目(もくめ)の種類をご確認いただく前に、木目(もくめ・きめ)と杢目(もくめ)の違いについて杢目(もくめ)と斑杢(ふもく)の違いについて杢目はどうして生まれるのか?も合わせてご確認ください。

杢目(もくめ)の種類


”木のいろはにほへと”わかりやすい木のお話し

木喰虫一枚板比較では、木を愛してやまない方々の為に、もっとわかりやすく”木のいろはにほへと”と題して、木について解説するコーナーを新設しました。

50年近くも木に携わって来た方(木喰虫さん)のお話しです。普段聞けないお話しも飛び出すかもしれません。

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