根杢(ねもく)は、樹種を問わず根玉(ねだま)の根の張った部位から取材します。ある意味、沢杢(サバ杢)・谷杢と紙一重の杢目柄とも言えます。出来るだけ根張りの角度に合わせ、平行に木取りします。角度を下げると、板の端に芝目(しばめ)杢が出て、バランスを逸してしまいます。
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根杢(ねもく)・根杢目(ねもくめ)
主に建築では、社寺建築の拝殿(はいでん)や金堂(こんどう)の天井部分、格子天井の枡目板に使われます。指物の世界では、求める杢目が根元に集中しますので、巾広から小巾まで、用途により取材されます。杢目柄は、なるべく根杢を感じさせない、バランスの良い総杢(そうもく)狙いにどうしてもなります。ですから、大きな沢筋・谷筋は、避けて取材します。逆に巾の広い板を取材する時は、二又(又幹)の一番平らの部分を取材する事があります。杢目ですから、とにかく杢目のバランスが最重要です。
写真①は、杉の根杢(ねもく)です。左側に谷筋目がありますが、代表的な根杢(ねもく)と言えます。
写真②は、巾広で中央2箇所、沢筋がありますが、総体に杢を上手く乗せた霧島杉の根杢目(ねもくめ)です。
写真③は、社寺の格子天井の例です。社寺紋や花鳥風月を格子天井にする場合、杢目が絵柄を邪魔するので、おとなしい柾目(杉柾、桐柾など)を使います。
写真④⑤は、欅(ケヤキ)の根杢を使った格子天井板です。正方形の中にある杢目の方向性・柄合わせも作品の見所になります。
写真⑥は、格椽(ごうぶち)から、格子天井まで、全て脂松(ヤニマツ)で打ち上げた価値が高い格子天井板です。傷の無い無垢材の松材は見事です。
よくある質問と回答
質問:根杢(ねもく)で何か面白い話はありますか?
回答:写真⑦は、昭和59年の写真です。木挽さんが新両国国技館内の天皇陛下が大相撲観戦に出る前の控室格子天井に使われた材と一緒に写っている写真です。
昭和59年の春に、私の工場へ伊勢神宮供出材の丸太が注連縄が張られた状態で来ました。昭和60年の新国技館初場所1月9日に間に合うように、格子天井材を挽いて欲しいという依頼です。
私の所は、原木置場と木挽さん2人の貸し出しのみの御約束です。物件は、施工鹿島建設、設計は数寄屋建築の大家杉山隆設計事務所です。昭和天皇は、無類の相撲好きで、新国技館初場所観戦となる為、楽しみになさっているとの事。控室に上げる天井材2.5尺角(巾76センチメートル)40枚を何とか納品する事が出来て、私も父も安堵しました。
作業中は、私共も木挽さんも大変でした。杉皮はもちろん、大鋸屑(おがくず)に至るまで、残り材も含めて全てビニール袋に入れて、伊勢神宮へ返却との事でした。鹿島建設の担当者が毎日工場に来て、付きっ切り状態です。
風が吹けば大鋸屑(おがくず)が飛ぶので、水を散水して搔き集めました。後に聞いたのですが、持ち帰った挽粉・杉皮は、神事の火起こしに使われたそうです。2ヶ月ほど仕事になりませんでした。しかし名誉な事なので、新国技館を観るとこの事が思い出されます。
根杢・根杢目のご紹介は以上です。続いて葡萄杢・葡萄杢目をご紹介いたします。
杢目(もくめ)の種類
木の杢目(もくめ)には様々な種類があります。図は一本の杉原木からのいろいろな杢目を木取るイメージとなっていますが、このイメージから把握できる通り、同じ樹種でも木取る場所が異なれば、違う杢目(もくめ)が現れます。杉の例となりますが、杢目を木取る区分としては、白太(辺材)(しらた)、純白・白杢(じゅんぱく・しらもく)、源平・耳白杢(げんぺい・みみじろもく)、上杢目(じょうもくめ)、笹杢・中笹杢目(ささもく・なかささもくめ)、中板目(なかいため)、中杢目(なかもくめ)、追い柾・荒柾(あらまさ)、本柾目(ほんまさめ)に分類されます。杢目(もくめ)の種類をご確認いただく前に、木目(もくめ・きめ)と杢目(もくめ)の違いについて、杢目(もくめ)と斑杢(ふもく)の違いについて、杢目はどうして生まれるのか?も合わせてご確認ください。
”木のいろはにほへと”わかりやすい木のお話し
一枚板比較では、木を愛してやまない方々の為に、もっとわかりやすく”木のいろはにほへと”と題して、木について解説するコーナーを新設しました。
50年近くも木に携わって来た方(木喰虫さん)のお話しです。普段聞けないお話しも飛び出すかもしれません。