全国各地の神社、寺、古建築など、旅行に行った際に、社殿の濡れ縁、板張り、玄関口、敷台(しきだい)、庭に面した広椽板などを歩いた時に、板の杢目が長年の雨、風に打たれたり、人の往来や出入りにより年月と共に板が風化、洗われていたり、杢目が浮き出ている場所を見た事があると思います。その様な板の凹凸部分を”浮造りが掛かった”と表現します。現在、大径材の枯渇により、”銘木”と呼ばれる材は、貴重材です。特に杉の天井板材は、枚数による杢目合わせ、杢目揃いが難しく、杢目落ち材が著しくなってきました。板そのものの自然美、艶を引き出す為や古建築に見られる風食にも似た味わいや杢目自体の立体感を出す為に、昔から考えられた加工方法を”浮造り(うづくり)仕上げ”と言います。

※文中の古建築の風合いを再現する方法に、うづくりとは違う古色(こしょく)仕上げがあります。

浮造り(うづくり)仕上げについて

写真①(左側)②(右側)は、同じ場所から取材された標準的な杢目です。

同じ場所から取材された標準的な杢目

同じ場所から取材された標準的な杢目:写真①(左側)、写真②(右側)

鏡面(きょうめん)加工

写真①は、鉋(カンナ)、自動プレナーによる仕上がり方です。この仕上げ方を鏡面(きょうめん)仕上げと言い、鏡(かがみ)面が語源です。床ノ間天井・杉板戸の巾の広い板も鏡板と呼びます。

浮造り(うづくり)加工

写真②は、”うづくり器”による杢目立ちを強調する為に掛けられた加工、杢目が立っているような立体感があります。写真②の加工をうづくり加工・浮造り加工と言います。

写真③は、うづくりを掛けた柾目材です。

うづくりを掛けた柾目材

写真③:うづくりを掛けた柾目材

写真④は、杢目にうづくり加工をした板目材です。

杢目にうづくり加工をした板目材

写真④:杢目にうづくり加工をした板目材

共に柾目の立ち具合、杢目の立体感が増します。写真を拡大して御覧下さい。

写真⑤は、屋久杉杢の天井材です。「A」は製材してから日時が経った材です。杢目肌が少し汚れている感があります。「B」はうづくり加工を施し、汚れを取り去った材です。この様に、古い材でも汚れを取り、杢目を引き立たせるのにうづくり加工は役立ちます。

「A」製材してから日時が経った材、「B」うづくり加工を施し、汚れを取り去った材

写真⑤:「A」製材してから日時が経った材、「B」うづくり加工を施し、汚れを取り去った材

浮造り(うづくり)加工に必要な道具

写真⑥は、昔から手作業のうづくり加工に必要な道具類のご紹介です。

浮造り(うづくり)加工に必要な道具

写真⑥:浮造り(うづくり)加工に必要な道具

①②③④は、基本となる”うづくり器”です。

  • ①は、野に植生している芽・萱(カヤ)の根を干して束ねた物です。木の杢目の夏目より硬く、板の縦方向に添って、擦り上げます。
  • ④は、①のうづくり器を2本連結で束ねた物で、巾の広い材を磨く時に便利で、昔は4本、5本を連結したうづくり器を使っていた職人も居ました。
  • ②は、同じ”うづくり器”でも”パキン”という”ヤシ”の繊維を束ねた物で、柔かい材や最終仕上げ用に用います。
  • ③は、”シュロ”の皮繊維を束ねた物で、硬・軟の中間の硬さです。

続いて、うづくり器の先端に塗ったり、擦り込んだり、刃物で細かく削ってまいた後、材面を磨く蝋(ろう)の種類を紹介します。

  • 「A」は昆虫の蜂類(ハチ)が巣造した蜂ノ巣から取った蝋分を固めた物です。蜜蝋(みつろう)とも呼びます。
  • 「B」は、伊保田蝋(いぼたろう)と言い、植物(コウゾ・ミツマタ・イボタ)などの葉や、小枝の又(また)の部分に寄生するカイガラ虫が自分の卵を保護する為に、自ら分泌する蝋分を遠心分離機に掛けたイボタだけを精製したものです。純度により、価格の開きが有り、粉末にした物は雪ロウ・雪粉(ゆきこ)と呼びます。
  • 「C」は、木蝋(もくろう)と工業パラフィンを混ぜた工業製品です。
  • 「D」は、”木”の櫨(はぜ)の果実から搾り(しぼり)取った”木蝋(もくろう)”です。伝統和蝋燭(ロウソク)は、この蝋を使います。
  • 「E」は、各職人が自前で作る蝋です。亜麻仁油(あまにゆ)・えごま油・くるみ油など、各蝋を自分なりに造った秘伝の蝋です。

電動うづくり器

写真⑦は、電動うづくり器(ナイロンブラシ付きホイールサンダー)です。数多くうづくるには、これが一番です。もともと車のホイールや、金属製品を磨く為に開発されたマキタの電動うづくり器で注意しなくてはならないのは、ワイヤーブラシが元々セットされているので、ナイロンブラシに付け替える必要がります。

電動うづくり器(ナイロンブラシ付きホイールサンダー)

写真⑦:電動うづくり器(ナイロンブラシ付きホイールサンダー)

ナイロンブラシ付きのマキタの電動うづくり器(木目出し対応)とナイロンブラシホイールについての商品情報については、以下のページよりご確認いただけます。

特注専門機械

以下の写真は、無垢天井・貼天井・すべての天井板の浮造り(うづくり)加工機(ナイロンバフ2基・布バフ1基特注専門機械)です。

無垢天井・貼天井・すべての天井板の浮造り(うづくり)加工機(ナイロンバフ2基・布バフ1基特注専門機械)

無垢天井・貼天井・すべての天井板の浮造り(うづくり)加工機(ナイロンバフ2基・布バフ1基特注専門機械)

浮造り(うづくり)加工の方法

電動うづくり器の場合

①材面、直角横磨き、②材面杢目通りに元から末へと縦に使います。電動うづくり器(ナイロンブラシ付きホイールサンダー)は、1台あっても決して損ではありません。持っている材の汚れ落としから作品制作には欠かせません。

ワイヤーブラシ・シンチュウブラシ併用の場合

写真⑥の⑤⑥ワイヤーブラシ・シンチュウブラシを併用する事もあります。

浮造り(うづくり)仕上げについて

写真⑧

浮造り(うづくり)仕上げについて

写真⑨

浮造り(うづくり)仕上げについて

写真⑩

写真⑧⑨⑩の流れで、タテの杢目に添って、一気に磨き上げます。

浮造り(うづくり)仕上げについて

写真⑪

途中で止めたりしますと、写真⑪のように、止めた部分に傷が発生しますので、擦る程度・加減に十分注意しながら作業を行なって下さい。

よくある質問と回答

質問::浮造り(うづくり)に関して面白い話はありますか?

回答:よく時代劇に出て来るシーンで、亭主を送り出す時、女房が写真の”火打器”で切り火をします。昭和の中頃まで、この火打器・石・刈茅のうづくり器・角状のイボタローは、どの家庭の玄関先にもあり必需品だった時代が永くありました。うづくり器は、亭主が帰って来て、穿いて(はいて)いた下駄類の汚れ落としに使ったり、桐箱や桐箪笥(タンス)の汚れ落としに使いました。またイボタローの角形は、厚み8分(24mm)・7分(21mm)、6分(18mm)と3タイプの厚みが有り、座敷・障子・襖(ふすま)の敷居・鴨居の溝巾に合わせ、建具のすべりを良くする為に使われました。

写真⑫は、各家庭の必需品であったうづくり器・火打ち袋です。写真を拡大して御覧下さい。

各家庭の必需品であったうづくり器・火打ち袋

写真⑫:各家庭の必需品であったうづくり器・火打ち袋

質問:他に浮造り(うづくり)に関して面白い話はありますか?

回答:戦前から各銘木店は、無垢天井板の上物品を納める時、天井面を伊保田の精製蝋(雪粉)を撒いてうづくり器で磨いて仕上がり品を納めていました。なぜかと言えば、当時家を普請(ふしん)するのに、春先に土台・基礎・柱立て・屋根廻り・内装まで手掛けて、初冬まで約1年をかけて建物を造りました。丁度梅雨から夏にかけて、時期的にハエ・アブがわく季節で、室内の天井材にまとわり付く為、ハエが止まらない様に磨きを掛けたと言います。今では信じられない話ですが、当時(私が小さい時)高級材は、仕上がり面に雪粉をスプーンでまいて、うづくり器で磨いていた光景が思い出されます。ハエが滑って落ちるくらい磨けと親方の声が聞こえます。

板の仕上げの方法について

板の仕上げの方法について、浮造り(うづくり)仕上げ洗い出し加工胡粉(ごふん)汚し加工泥(どろ)汚し・荒久田(あらくだ)汚し加工名栗(なぐり)・杣名栗(そまなぐり)・突鑿名栗(つきのみなぐり)加工昔からある板の加工方法(紅茶染仕上り、鯨油仕上り、洒落材の使用)についてご紹介いたします。

板の仕上げの方法について


”木のいろはにほへと”わかりやすい木のお話し

木喰虫一枚板比較では、木を愛してやまない方々の為に、もっとわかりやすく”木のいろはにほへと”と題して、木について解説するコーナーを新設しました。

50年近くも木に携わって来た方(木喰虫さん)のお話しです。普段聞けないお話しも飛び出すかもしれません。

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