”杢目はどうして生まれるのか? ”この答えは、本や学術書に、これだ!!これが起因か!!と言う答えは、未だ読んだり、聞いた事がありません。同業の木材に精通した方に聞いても、はっきりした回答がありません。”木”の樹齢からすると、人間の寿命など、人間よりも何倍も自然の中で生き抜いて来ている訳ですから、”木”からしてみれば愚問かもしれません。しかし、”木”を生業(なりわい)として来た訳なので、”杢の発生”について、今までの経験からでも、答えを導かなければなりません。1つの仮説としてお聞き下さい。
目次
杢目はどうして生まれるのか?杢目が出来る理由
杢目の発生の起因
- ①樹齢が高い木、樹種にもよって差は生じますが、樹齢300年を基、目安になります。
- ②瘤(こぶ)の発生の多くは、あらゆる傷が起因で杢に継がる場合もあります。
- ③自然(土壌・大気・気象)・節の発生(枝落ち枝折れ)等に起因する場も多いです(生育時の環境)。
- ④樹木の幹(みき)に発生する洞(ウロ)の大・小にも起因する事が多いです。
- ⑤樹木が本来持っている遺伝的要素も杢の発生に大きく起因します。
この5つの要素を基に、”杢目の発生”をひもどいて行きます。
杢目の発生
針葉樹の杉を一つ取って説明します。写真①②③は、樹齢の高い杉原木、丸太小口の断面写真です。これらは、小口に現れた杢目の形成の履歴書とも言えます。年輪は、気象分析や考古学の年代測定にも利用されています。
写真①は外皮に近い杢目を生ずる波状の年輪の重なりで、写真②で確認できる、V字状にタテに走る線は、”杢足(もくあし)”と言われ、杢目の深さが有る証拠でもあります。
写真①③は、黒い輪の変色。写真③の中央には、何かの衝撃事故。木にとっての事件・事故の履歴です。枝擦れ(すれ)、枝折れ、雪害が想像出来ます。では、この写真にある年輪1目のゴムのリブのような波状は何で出来るのでしょうか?これは生きて来た時代の台風・風・風雨による木が枝を通して揺れた跡だと思います。
1年を通すと我々人間でも、天候に左右されます。”木”は1年ではありません。何百年の単位で、枝葉が風により揺らされた痕跡です。年輪が紙を畳んだ(たたんだ)ような屋久杉でも、ルーペで拡大してみると、写真の様に細かい波状が見て取れます。この波状は、木の長さに対して刻まれた(きざまれた)杢の絞(しぼり)です。
写真④⑤⑥は、樹齢400年の霧島杉の長さタテの絞り肌です(杉皮を全部剥ぎ取って丸裸にした原木)。中に深く入っているタテ絞が”杢足(もくあし)”となります。このまま製材しますと、霧島杉特有の気品有る”笹杢目”が現れます。
写真⑦⑧は、丸太の杉皮を剥ぎ、むしっている時の写真です。
写真⑦⑧を拡大して見て下さい。杉皮にも④⑤⑥と同じように、絞り跡がまるでハンコ(印)の様に写り表われています。絞りは鬼皮にも、その下の幹肌にも、白太(成長層)にも同じように現われています。
この様な絞り跡が、杢発生の起因の1つと言えます。
北山杉の例
- ①の入絞は、原木の絞りに相当します。
- ②の出絞りは、”杢足”と同じです。
- ③は、深い絞り模様です。
これらの出絞・入絞の丸太類を丸く削り上げると、大木の霧島杉のように全面笹杢目状態になります。
北山杉の疑問
400年の杉丸太が長年の風雨で絞りが出来るのに、なぜ10年くらいの若い木に絞りがあるのか疑問が湧きますね!!植林して10年そこそこの年輪で絞りや出絞りが現われるのは、クローン化、親の劣性遺伝を利用した、いわば培養植栽(挿し木)だから可能なのです。杉は比較的クローン化が可能ですが、欅(ケヤキ)を含む広葉樹では、玉杢化培養技術は未だに確立されていません。
天然入絞丸太は、クローンでは育たず本数の出現量も少なく、切った丸太は、最低30~40年の年輪を数えます。優性遺伝とは、木が本来持っている枝を張りすくすく伸び育つ遺伝で、北山杉の出絞りは”ひね物”のある意味代表です。入絞も出絞もその母樹も300年経つと霧島杉の様に必ずなります(説明には、枝打作業・土壌の良悪の条件は入れていません)。
よくある質問と回答
質問:縦(たて)の絞りをわかり易く説明して下さい。
回答:大径木は、木の枝が数多く有り、毎日毎日1年を通じて風に揺られている波動・風動が絞(しぼり)になります。人間に例えると体操時、ひねりを加えた時、背中や腰廻りに付く”シワ”と同じと考えて下さい。廻りの自然条件では、植林樹は、間引き枝打を繰り返します。自然の中では、なかなか1本立ち出来ず、廻りに大きな木が無くなると、優性遺伝子にスイッチが入り、その後大きくなり杢が付き始めます。最初から例えれば岩盤の上とか、立木の条件が悪いと、早くから1本立ちをしなければならず、人と同じように、ひねて人が悪い性格になる”劣性遺伝子”のスイッチが入るのではないかと思います。ある意味”トラウマ”、”心の傷”が杢の始まりです。
質問:縦(たて)の絞りだけで杢は発生しますか?
回答:そこそこの杢目柄は取材できますが、横の絞りも重要です。横の絞りとは、幹に対して横方向、斜め方向に段状に入る波状の形状を言います。わかり易く人に例え、体操時、体側時、腰廻りのお肉が横に加圧され、段状につきますね。”三段腹(さんだんばら)”の例えの様に、余分なお肉が横向きになります。自然界では、台風・突風により真横に振られた、または”木”が倒れんばかりに強い衝撃を長年受け易い場所に、立っていた木などにも多く見られます。
質問:横絞りについて、もう1つの考え方とは何ですか?
回答:それは木の洞(ウロ)に関係します。にわかに信じられない事があります。木を伐採すると、中心芯の脇に目割れが有る樹種があります。これは大雨・梅雨など、これ以上水の吸い上げを拒否するサインで、この目廻りを通して水分を排出するいわば装置だと言います。
マタギの猟師や山林管理者からよく聞く話しです。ブナなど、幹に耳を当てると「”ザー”っと水を落す音が聞こえる!!」
真意は別として、洞(ウロ)の最初の誕生もこの目割れがだんだん大きくなり、大洞(おおうろ)に成っていくと考えられます(もちろん外部要因も多くあります)。人に例えると”三段腹”でジャンプすると、下方へユラユラお肉のたるみが下へ落ちませんか?また、1本のジーンズでもズボンでも、ゆっくり足元まで降ろして行くと、最初は尻や股(もも)部分で止まり、膝下は一気にずれ落ちます。この時、ズボンのシワは、真横に寄ります。人の体を幹に例えると、小さな洞(ウロ)が出来た頃は、さほど目立ちませんが、大洞(おおウロ)になると、支えようとして根が張り、外皮の肉が大きく地滑り状態になります。これが根近くに出来る”タクリ杢”になると思います。洞(ウロ)は、人間の背骨や両足です。骨格が衰えて行くと必ず肉が痩せて行きます。”木”は、永い年月を掛けて洞(ウロ)に比例し、外皮にシワを寄せて行くと私は思います。過日、屋久杉の大木(縄文杉)以上の木を探す番組がありましたが、縄文杉並みの大木は、全て大洞(おおウロ)を抱えていましたね。世代交代出来る木は、若木が添木となって、何とか支えていますが、そうで無い大木は、倒木となり次の世代の肥やしになり、人と同じように土に帰ります。
杢(もく)の始まりと終わり
結論ですが、縦(たて)の絞りと横(よこ)の絞りが上手く絡み合って世間で言う”上杢(じょうもく)”が生まれると思います。南方熱帯林では、日本の四季が無いのに杢が有ると言う方が居るのはわかります。東南アジア・インド・アフリカ・南米でも、モンスーン等が有り、風は無風ではありません。標高もありますし、谷もあり、山脈もあります。ただ地球の変動・温暖化により、年を重ねて行く内に、生えてきた環境が激変した地域があります(例:チリ杉・モンゴル赤松)。
自然からの恩恵に心から感謝して、”木”をもっともっと、大切に生かして欲しいと願います。
杢については、私の仮説です。ここが違うとか、こんな考え方が有ると言う方は、お問合せフォームより出題して頂ければ幸甚です。
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杢目(もくめ)の種類
木の杢目(もくめ)には様々な種類があります。図は一本の杉原木からのいろいろな杢目を木取るイメージとなっていますが、このイメージから把握できる通り、同じ樹種でも木取る場所が異なれば、違う杢目(もくめ)が現れます。杉の例となりますが、杢目を木取る区分としては、白太(辺材)(しらた)、純白・白杢(じゅんぱく・しらもく)、源平・耳白杢(げんぺい・みみじろもく)、上杢目(じょうもくめ)、笹杢・中笹杢目(ささもく・なかささもくめ)、中板目(なかいため)、中杢目(なかもくめ)、追い柾・荒柾(あらまさ)、本柾目(ほんまさめ)に分類されます。杢目(もくめ)の種類をご確認いただく前に、木目(もくめ・きめ)と杢目(もくめ)の違いについて、杢目(もくめ)と斑杢(ふもく)の違いについて、杢目はどうして生まれるのか?も合わせてご確認ください。
”木のいろはにほへと”わかりやすい木のお話し
一枚板比較では、木を愛してやまない方々の為に、もっとわかりやすく”木のいろはにほへと”と題して、木について解説するコーナーを新設しました。
50年近くも木に携わって来た方(木喰虫さん)のお話しです。普段聞けないお話しも飛び出すかもしれません。